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EP28「光の指す方へ」

 -8/3 AM09:45 ARS本部 司令室-

 ヘカントケイル撃墜作戦の衝撃的な結末を迎えて数時間後。俺たちはようやくARS本部へと無事帰還することができた。
他の皆はそのままARSの防衛についていたが、結局は敵の部隊もブラフだったらしく、本部に対する直接攻撃はなかったようだ。
 そして翌日、フィーニクスの力を得て、記憶が戻った輝咲から、今知っている真実を全て聞くこととなり、急遽俺たちはここに
集められた。
 聞きたいことは山積みだが、今一番皆が知りたがっていたのは、エルゼが言っていたことの真相だ。そのことで、ゆっくり
と輝咲の口から語られた。

輝咲「ちょうどこの時間から数年後、地球には人々が溢れるようになり、新たなる地を求めて、地球とほぼ同じ環境にある
   星を探す宇宙開拓の計画が進行しはじめます。そして今から30年後に人類は地球と98.2%一致する星を見つけることに
   成功しました。」
剛士郎「その星が、エルゼの言う"惑星イオ"というわけか。」
輝咲「はい。でも、発見当初イオには生体反応は無く、我々人類が生存するにあたって最低限となる微生物の存在しか確認され
   ていないという情報でした。」
真「でもよぉ人類はイオに居る奴等全員滅ぼしたってんだろ?同じ人間として黙っちゃおけねぇな。」
陽子「ほんとに酷いよ、一方的すぎる。」
雪乃「一つ重要なことを忘れてないかしら?もしも今、この地球に宇宙人が来ているとしたら、私達は黙って見過ごすかしら?
   そう考えると、向こう側が先に迎撃行動に移った、とも考えられるわ。」
レドナ「可能性を摘みとるわけではないが、機神、魔神機、ドライヴァー、サモン、全てあいつらが所有する技術だ。
    そんな高い技術力を持つ種族が、簡単に人類に滅ぼされるとは考えにくい。」

 忘れがちだが、俺達が所有している重要戦力のほとんどはリネクサスから奪ったものだ。その力は未来に存在していた機人
すらもはるかに超越している。

静流「つまりは、惑星イオの住民は人類という存在を受け入れる立場にあり、それが裏目に出た・・・ということか。」
佑作「なんだよそれ!めちゃくちゃですよ!」
かりん「ま、未来のお偉いさんも切羽詰ってたんなら、やりかねないとは思うけどね~。」
結衣「それが事実なら・・・、私達の本当の敵はリネクサスなのかな?」

 結衣の言うとおりだ。俺たち人類が犯した罪によって惑星イオの住民が滅びた。そしてその仇を討たんと今人類を滅ぼそうと
している。征服理由はとても理に適っている。
 だが、それを肯定するとなると、俺たちの敵は――。

暁「敵は、未来の俺たち自身・・・。」


 EP28「光の指す方へ」


静流「確かにそうかもしれんな。だが、私はARSの敵が未来と言うのであれば降りる。」
雪乃「か、神崎君!?」
レドナ「俺たちはリネクサスに大切な者を奪われたんだ、このままリネクサスと対立しないのなら、
    俺も降りる。」

 突然の神崎の発言に対する驚きを整理する間も無く、レドナが続けた。

剛士郎「このままリネクサスを手を取り合い、未来の人類を倒すのが一番正義に近いことだと思うが・・・。
    確かに神崎君と夜城君がいう事も一理ある。」
暁「司令、ARSはこれからどうするんですか・・・?」
剛士郎「鳳覇君はどうしたい?」
暁「俺は――。」

 その時、答えを遮るかの如く警報が鳴った。

雪乃「こちら司令部、どうしたの!?」

 すぐに有坂が机の受話器を取り、確認を取る。

雪乃「太平洋にリデンスキャフトが確認されたわ、それに・・・ドライヴァーから通信が入っているわよ。」
暁「お、親父から!?」
雪乃「どうやら向こうは一機、だから鳳覇君にも一人で来て欲しいと。」
真「ぜってー罠だろ、遠慮すんな、俺も一緒に・・・」
暁「いや、大丈夫。会って蹴りをつけてくる。」

 俺は許可を得ようと司令を見たが、目が合うと司令は頷いた。

剛士郎「有坂君、すぐにハンガーにエイオスの発進準備をさせてくれ。」
暁「ありがとうございます!」

 くるりと向きを変え、俺はハンガーに向って走った。


 -8/3 AM10:10 太平洋 上空-

 エイオスで急いでリデンスキャフトの下へと向うこと数十分、上空に佇む紫の機影が肉眼で確認できた。

暁「親父・・・。」
光輝「きちんと一人で来てくれたみたいだな、ありがとう。」
暁「どうして俺を?」

 意外な相手の言葉に、気を取られそうになったが、すぐに本題へと移す。

光輝「インフォーマーが記憶を取り戻したとエルゼから聞いた。もう我々リネクサスの目的、それに到った経緯を
   お前は知っているだろう?」
暁「宇宙開拓で見つけた惑星イオを滅ぼした人類への報復・・・。」

 親父は黙って頷いた。

光輝「その事を知ったお前にもう一度聞きたい、俺たちと一緒にこの腐りきった人類に制裁を下さないか?」
暁「・・・一つその前に聞きたい。親父は・・・惑星イオの住民なのか?」

 数秒の沈黙、親父はゆっくりと口をひらいた。

光輝「俺は地球人だ。そして宇宙開拓において、唯一イオの住民と共存を提案した者だ。」
暁「・・・!!」
光輝「俺たちが始めて惑星イオを見つけた時、我々人類はその星の住民の技術の高さに圧倒されるばかりだった。
   地球では不可能とされていた二足歩行の機人や、さらにその上位存在である機神などもあったのだからな。」

 親父は話を続けた。

光輝「イオに降り立った時、彼等も地球に対して興味を持ち、共存しようとする考えを持っていることがわかった。
   彼等は我々の言語を喋ることが出来ていたし、ある程度の文化すら知っているようだった。」
暁「なら、なんで親父だけが共存しようと思ったんだ・・・?普通ならそれで丸く収まるじゃないか。」
光輝「言っただろう、彼等の技術が脅威すぎたんだよ。もしもイオの住民が裏切り、我々に敵対しようものなら、
   それに成す術はないだろうと。」
暁「だから・・・イオの住民を・・・?」
光輝「俺は最後まで反対した。そしてイオの住民にこの事実を伝えたが、時は遅かった。
   敵対宇宙外生命体駆除用に持って来ていた核爆弾でイオを滅ぼしたんだ。
   俺の話を聞いてくれた数人のみが地下シェルターで生き延びたがな。」
暁「その中の一人がエルゼなのか・・・?」

 親父は頷いた。

光輝「エルゼはそれから生き残ったイオの住民は地球に対して敵意を持つようになった。
   気付けば俺も自らその一員となって、機神の開発に手を貸していた。
   そしてその中で俺はイオの住民であるレイン・フルブレイムを元に、強化された人間を作ることで
   一対多の状況を作り上げ、少数でも人類を滅ぼせる計画を提示した。」
暁「それがこの俺で、その人間がX-ドライヴァー。」
光輝「あぁ、その通りだ。俺は地球でのタイムマシンの公式をイオの住民に教え、彼等は独自の解釈で
   無理だと思われていたその装置を完成させた。そして彼等は過去から未来を変えようと、人類に
   "イオの惑星の技術"の脅威を地道に植えつけていった。その一環で俺も過去へ行き、X-ドライヴァー
   として期待できる存在を求めながら普通の生活を送り続けた。その中で茜と出会い、彼女はおまえを産んだ。
   そして俺はお前をX-ドライヴァーにして生き永らえさせることにしたんだ。」
暁「なぁ・・・親父・・・。親父は俺を息子として認めているか?」
光輝「当たり前なことを聞くな、暁。」

 その言葉に俺は吹っ切れた。

暁「じゃあ、てめぇは自分の息子を戦いに巻き込んで満足してんのか!?
  御袋はどんな思いで俺を育ててたか分かってそんなことしたのかよっ!!」
光輝「・・・・。」
暁「答えろ!!」

 感情を察してか、エイオスがリデンスキャフトに掴みかかった。

光輝「俺がお前をXドライヴァーにしたのは――」

 重い口を開きかけたその時、頭上からビームの雨が降りそそいだ。

暁「何っ!?」

 すぐにリデンスキャフトを離し、羽を広げて旋回して回避する。

レイン「お前の真相心理から、本当に一人で来るのは分かっていたさ。」

 エイオスと同じ高度にスィージメント、グラネスカット、レイフェジーズが現れる。

暁「くそっ!親父、騙しやがったな!!」
光輝「まてレイン、話が違うぞ!!」
レイン「見えているぞ、お前の心理・・・このアルゴスの眼がな。」
光輝「くっ・・・!!」

 スィージメントがリデンスキャフトの方を向く。

暁「ど、どういうことだ・・・!?」
ガルド「そんじゃ、レインはそっちを頼むぜ。俺らはニセモノを潰すぞ!」
フィリア「うん!」

 グラネスカットの巨体がこちらに接近する。そのすぐ後ろでレイフェジーズが援護射撃の構えをしていた。

暁「トワイライトブレード!!」

 エイオスの左肩の空間が湾曲し、その中からオレンジ色の大剣を手に構える。突進してきたグラネスカットにその刃を振り下ろす。
反動の余韻を残しつつも、すぐさまエイオスを下降させ、続いての援護射撃を回避する。

レイン「エルゼ様からのお告げだ、これ以上余計な事をしゃべる前に殺せ、とな。」
光輝「アルゴスの眼にしては、全てお見通しということか。
   なら、お前も分かっているだろう!エルゼはお前自身の記憶を改変し、イオの住民としての記憶を植え付けられたことも!」
レイン「・・・・!!」
暁「親父・・・!?」

 2機の攻撃を避けながら向こうを見る。親父の言葉にレインは固まっているようだ。

ガルド「レイン、そんな奴の言う事聞くんじゃねぇ!」
フィリア「ねぇねぇガルド、向こうからやっつけた方がよくない?」
暁「させっかよ!!」

 ブレードを左手に持ち替え、右手で新たに現れた空間からバスターランスを引き抜く。照準を合わせ、先端からオレンジ色の
光が2機目掛けて放たれる。

ガルド「フィリアは向こうに行け、こっちは俺がやる!」

 グラネスカットが反転し、攻撃を正面からバリアで受け止めた。

レイン「そんなこと・・・そんなこと、あるはずが・・・!!」
光輝「俺もお前も、同じ運命を背負った存在だ。自らの星を自作自演で滅ぼし、イオを見つけた生物から技術を聞き出し、
   そしてその生物の世界を支配する・・・。お前の星も、エルゼに支配されている!!」
フィリア「余計な事しゃべらないでよね!!」

 レイフェジーズの4本の腕がリデンスキャフトを捉える。即座に背中から有線クローアームを展開し、その腕を押さえた。

暁「一体・・・どういうことだよ!」
光輝「すまないな暁、騙して。しかし、もうこいつらが居るのであれば真実を語るしかない。
   俺がお前をここに呼んだのは、同情してくれるだろうお前とエルゼの元へと共に行き、そこでアイツを倒すのが目的だった。」
暁「!!」
光輝「俺は最初からリネクサスの手口を知っていた、だから協力しながらもいつかエルゼを倒すための秘策を考え続けてきた。
   そこに辿り着いたのが、お前をX-ドライヴァーにすることだった。」

 さっきの親父が言いかけたことはこれだったのか。

光輝「お前のX-ドライヴァーの力でエルゼを倒す、そのために俺はお前にリネクサスに入ってエルゼに接近できるよう機会を作ろうとした。
   だが、未来のお前は俺が教える前に自らその事に気付き、それを過ちだとして反リネクサスを掲げていた。
   お前の正義感の強さは、俺の想像以上だった。」
暁「親父・・・・。」
ガルド「もう言い尽くしたか光輝・・・!もう用は無い!!」

 グラネスカットもレイフェジーズと共にリデンスキャフトを追いかけた。

暁「待て!!」

 エイオスの羽を広げ、さらにそれを追跡する。

レイン「認めない・・・私はぁぁっ!!!」

 振り向くと、アルゴスの眼が赤い涙を流した。そしてその涙が、スィージメントの全身を真っ赤に染めていく。

暁「ブラッディ・モード!?」
光輝「それに感情の暴走でアルゴスの眼が攻撃的になっている、気をつけろ!」

 リデンスキャフトもブラッディーモード状態に入った。紫の機体が一気に真紅に染まる。

暁「親父、クローで足止めを頼む!あとは俺が仕留めるぜ!
  行くぜエイオス!ブラッデイ・モード!!」

 俺の頬を伝う赤い涙が機体に触れ、エイオスの白銀の装甲も真紅に染まった。この戦域はエイオス・リデンスキャフト・スィージメント
のみの時間が動いた。

光輝「暁、こんな俺でも・・・まだ俺を親父として認めてくれるか・・・。」
暁「親父?」

 リデンスキャフトが変形し、スィージメントに突撃した。

レイン「うあぁぁぁぁ!!」

 言葉もろくに喋れない精神状態のレインは、我武者羅にそれを引き剥がそうともがいた。アルゴスの目からは、どす黒い
ビームが何回も放たれる。

光輝「ぐっ!!!」

 その状態で中途半端な変形をして、上半身だけが人型となったリデンスキャフトはスィージメントに掴みかかった。
なおも放たれるアルゴスの眼からのビームで、リデンスキャフトの左足が吹き飛んだ。さらにクローアームを展開し、
時機諸共スィージメントを縛り付けた。

光輝「こうも接近していれば、その真価を発揮することもできないだろう・・・レイン・フルブレイム!!」
暁「親父!!離れろ!!」

 バスターランスを構え、いつでも発射できるように羽と尻尾を駆使して体制を立てる。

レイン「あぁぁっ!!あぁぁ!!!」
光輝「暁、早く撃て!!今のコイツはこの時間の中で瞬間ワープができるほどの代物だ!」

 さらなるビームがリデンスキャフトを襲う。装甲は抉れ、掴みかかるのがやっとというほどだ。

光輝「ぐうぅぅ!!」
暁「親父ぃっ!!」
光輝「暁・・・すまないな、こんな重荷を押し付けてしまって。もう俺はお前に恨まれても文句は言えんよ。」
暁「・・・そんなことない!俺はどんな形であれこの現状を知ったら、どんな重荷だって背負い込んだ!」
光輝「ふっ、強くなったな・・・暁。本当にお前は"希望の光"になったんだな。」
暁「お・・・・やじぃ・・・。」

 目頭が熱くなる、気付けば赤ではなく、本当に透き通った涙が俺の頬を流れていた。

レイン「ぐあぁぁぁぁ!!!」

 黒いビームがリデンスキャフトの胴体を貫いた。

光輝「がぁぁぁっ!!はやく、はやく・・・撃て、暁!!」
暁「親父・・・・、俺は親父の息子で良かった!それを誇りに思う!」

 俺はレバーに指を掛けた。

暁「ありがとう・・・親父。」
光輝「ありがとう・・・暁。」

 人差し指を引いた。バスターランスからオレンジ色の煌く粒子が砲身の直線状の空間を満たしていく。そしてそれは、
リデンスキャフトと、スィージメントの姿を包み込み、2機を跡形も無く消し去った。

 もうそこには何もなかった。

 でも、そこに"あった"意志の一つは、俺が受け継いでいる。

 ゆっくりトリガーから人差し指を離すと、呼応するかのようにエイオスは白くなった。

ガルド「レインが・・・・。」
フィリア「やられちゃったの・・・!?」

 時間のフィードバックが俺を襲う。苦しみの中にこみ上げてくる怒りと哀しみ、それが俺の体を限界まで酷使させようと
していた。

暁「うあぁぁぁぁぁっ!!!」
ガルド「フィードバック受けてる状態で来るだとッ!?」

 グラネスカットに向ってバスターランスとトワイライトブレードを構える。巨体に向ってランスを突き刺すと、ガードする
ために前にだした灰色の右腕を貫いた。

ガルド「何ぃっ!?」
フィリア「ガルド!!」

暁「あぁぁぁぁっ!!!」

 レイフェジーズの位置を確認すると、そこに向ってトワイライトブレードを投げつけた。見事に刃は青い装甲を捉え、左足を
切り落とした。

フィリア「きゃうんっ!!」

 突き刺しているランスを抜き、グラネスカットの腹部に蹴りを入れる。

ガルド「ちっ・・・、撤退だ!フィリア!」
フィリア「えっ、でも!」
ガルド「見ろ、向こうの援軍だ。」
真「暁ぁっ!!」

 エイオスから遥か向こうに金色の機体と漆黒の機体が見える。

暁「うっ――・・・」

 安心しきったからか、押さえ込んでいた圧縮された時間の激痛で、俺の意識は吹っ飛んだ。


 -?/? ??:??? ???-

――暁

 誰かが呼ぶ声が聞こえる。

暁(誰なんだ・・・?)

 心で思った言葉が体のどこからか発せられている。目が開いているのか閉じているのか分からないほど真っ暗な空間の中で、その
声はエコーがかかっていた。

――お前は 特別な存在だ

暁(特別・・・?俺が人間比べてか?普通のドライヴァーと比べてか?)

 もはやアルファードのドライヴァーである事を知らされたあの日から"特別"という言葉が持つ意味を忘れかけている。

――未来へ続く 希望の色だ その光を 絶やすなよ

暁(きぼうのいろ・・・)

暁「親父っ!!」

 目を覚ました俺がまず見た物は、もう何度目であろうかARSの医務室の天壌だった。視界の縁に、びっくりした顔の輝咲が映っている。

輝咲「暁君、大丈夫・・・?うなされてたみたいだけど。」
暁「あぁ・・・、なんとか。」
明美「いきなり大きな声だすからびっくりしちゃったわ。」

 日向先生も俺の顔を覗き込む。

明美「運ばれてきて10時間、いつもよりも長いフィードバックだったのかしら?」
暁「・・・・くっ。」

 さっきの戦闘を思い出していた。もう本当に親父はこの世にいないのだろうか。実感がない。誰でもいい、親父が死んだ事実を証明してくれ。

輝咲「暁君・・・?」
明美「まだ痛むかしら、まだ横になってていいわよ。」
暁「・・・さっきの戦闘記録、残っていますか・・・?」

 日向先生も輝咲も顔をそらした。やっぱり、親父は死んだんだ。でも納得がいかない。

暁「ちょっと、外の空気吸ってきます・・・。」

 俺はハンガーにかかっていたARSの上着に手を通して医務室を後にした。

 -

輝咲「日向先生・・・。」

 私はまた、暁君に何と声をかけていいのか分からなかった。ここに暁君を運んできた夜城さん達が言っていたけど、暁君は自分の手で
お父さんを――。

明美「さすがに身体ケアはできても、私もあそこまで深く抉られた心をケアすることはできないわ。」
輝咲「・・・。」

 なんでだろう、一番辛いのは暁君のはずなのに。なんで私の目から涙がこぼれてくるんだろう。

明美「行ってあげなさい、鳳覇君のところへ。」
輝咲「えっ・・・?」
明美「あなたは、なんで今自分が泣いているかわかるかしら?」

 私は首を横に振った。先生は知っているのかな。

明美「榊さん、鳳覇君の事好きでしょう?」
輝咲「・・・どうして、ですか?」
明美「恋がどういうのか分からない人には分からないでしょうけど。
   今ないているのは自分の無力さ半分、鳳覇君のことで半分って感じかしら。」

 そうだ。何もしてあげられない自分に悔しいと思う気持ちと、暁君が出て行った時の寂しそうな顔を見て胸の奥から湧いてくる
気持ちでいっぱいだ。

明美「行ってきなさい、鳳覇君のところに。きっと彼も今頃誰かに支えられたいって思っているはずだわ。」
輝咲「でも・・・私、まだ暁君にどうやって勇気付ければいいか・・・わかりません。」
明美「黙って隣にいてあげるだけでいいわ。後は言葉がなくても通じ合える。それが恋人同士ってやつよ。」

 恋人同士――。暁君と一緒にいる時間がすごく嬉しいと思っていた。暁君の傍に居られるのがすごく幸せだった。だから暁君のことは
好きなんだろうって思ってた。でも違う。私は好きだから、暁君を愛してるんだ。

輝咲「先生、ありがとうございますっ!」
明美「うん!頑張ってね。」

 私はARS本部の屋上へと向った。


 -8/3 PM8:45 ARS本部 屋上-

 何も無い街を眺めていた。真実の半分もしらない人々が行きかう街を。もしも今ここにリネクサスが現れて、この街を消したらどうだろう。
俺の知らない人ばかり、消えようがなんだろうが、俺はリネクサスに敵対するただの存在。それと同じように、俺にとって親父というものは
存在していたのだろうか。誰がなんというおうと、親父はただ俺の親である存在。

 "俺に会いたいと思うな、俺を忘れていたほうが別れが来たときに辛くなくなるから。"

 親父の言葉が俺の頭を埋め尽くす。何が辛くなくなるから、だよ。こうやって俺は今、親父の存在は何だったのか考えすぎて頭がショートしそう
なくらいじゃねぇーか。

暁「親父・・・。」

 ガチャっとドアの開く鈍い音が後ろでなった。誰か来たのだろうか?でも、振り向く気力も無い。

輝咲「暁君・・・。」
暁「・・・。」

 振り向かずとも分かるその声、予想通り輝咲だった。でも、返す言葉が見つからない。

輝咲「・・・。」

 俺の反応を待っているのだろうか。輝咲の足音は俺のすぐ後ろで止まり、それから数十秒が経過しようとしていた。
 ごめんな、輝咲。何も喋れなくて。心の中で謝ってもしかたない。俺がそれを声にだそうと思っていた時だった。

輝咲「っ!」
暁「!?」

 背中に暖かいものが触れた。俺の腹部ではか細い手が交差している。その暖かいものは、早いスピードで鼓動している。振り向かなくても分かった。
輝咲が俺の背中に抱きついている。

暁「輝咲・・・。」
輝咲「何も言わなくていいよ。」

 無理して開いた口を、俺は再び閉じた。輝咲ってこんなに暖かいんだ。

輝咲「暁君が今感じている辛さは、私には分からない。でも、暁君が今辛いと思っているなら、それを分かりたい。
   一緒に、その辛さを乗り越えたいよ・・・。」

 俺は何も言わずに黙っていた。

輝咲「私ね、今でも暁君が自分でARSに来たいって言った日のこと覚えてるんだ。」

 懐かしいな。俺も鮮明に覚えている。

輝咲「ARSに初めて行く時、お互いの話しして、暁君のこと、すごく強いんだなって思った。
   それに・・・私の事守るって言ってくれたとき、すごくすごく・・・嬉しかった。」
暁「失望したろ・・・?たかが他人みたいな親父を自分の手で撃っただけで、こんなに何も考えられなくなる弱い男で。」
輝咲「ううん、それは暁君がお父さんの事を思っている証拠だよ。どんなに離れていても、家族だもん。」

 家族――、親父は最初から俺の事を考えていた。だから俺と一緒にリネクサスを、エルゼを倒そうと思っていた。
そして親父は俺にトリガーを引かせた――、最後まで俺の事を。
 だらしないな俺、守るって決めた女の子がいる前で涙なんか流してやがる。

輝咲「悲しいときは泣いていいんだよ、嬉しいときに笑うことに理由なんてないから。」
暁「輝咲・・・・。」

 その言葉で俺の涙のダムは決壊したらしい。洪水のように大粒の涙が俺の頬を伝っていくのが分かる。

暁「輝咲・・・・!!」

 立っていられなくなった俺は、地面に崩れた。輝咲は黙って、そんな俺をもう一度抱きしめてくれた。今度は正面から、力強く、か細い手で。

輝咲「私はここにいるからね、いつも、暁君の傍にいるからね。」

 細い手が、指が、俺のくしゃくしゃな黒髪を優しく撫でる。こんな世界にも、こんなに心地いい場所があったんだ。いや、心地いいと思えるのは、
俺が輝咲を好きでいるからだ。

輝咲「私ね、暁君に言わなきゃいけない事があるの。
   未来の世界の話とか、これからどうなるかとかの話じゃなくて、今の私の気持ち。」
暁「・・・・。」

 俺は黙って耳を傾けた。輝咲は耳元でそっと呟いた。

輝咲「私は、暁君のこと・・・愛してる。」

 多分そうだろうなんて思っていた俺でも、一瞬時が止まったかのように思えた。嬉しいなんて気持ちを遥かに超える言葉があるのなら、まさに
それを超える言葉が当てはまる、そんな気分が俺を包んだ。今ここにいて、そういってくれたのが輝咲で、俺は何も考えられなくなった。
でも、俺も輝咲に伝えなくちゃいけないことがある。

暁「輝咲・・・。」
輝咲「ごめんね、こんな時にこんな事言っちゃって。」
暁「そんなことない、だって・・・俺も同じ気持ちだから。」

 体に力はあまり入らなかったが、今以上に輝咲をぎゅっと抱きしめた。顔は見えないが、両手に確かに感じる存在は、ものすごく温かかった。

暁「ありがとう、輝咲。」

 もう俺は逃げない。悲しみを乗り越えたその先にある力を掴んだんだ。恐れるものはなにも無い。俺は戦える。輝咲を守るために。そして、
俺と輝咲、そして皆の未来のために。
 俺は涙を拭って星達が光輝く夜空を見上げた。

暁(まってろ・・・エルゼ、お前の野望は俺が打ち砕く・・・!!)


 -同刻 宇宙-

 私は傷ついた2機に最後の時を告げるために、このエデンを駆り宇宙を漂っていた。
 大気圏を突破してきた2機が視界に入る。

エルゼ「オリジナルレインはやられたか。」
フィリア「あの鳳覇が裏切ったからだよー!」
ガルド「なんであんな奴を俺たちの仲間にしていたんだ!」
エルゼ「そう怒るな。オリジナルレインも鳳覇 光輝も消えたんだ。もう我々に疑惑の目を向ける者は内部にはいないさ。」

 そう、最大の障害は消えた。後は――

フィリア「・・・どういうこと?」
エルゼ「オリジナルの君達にも消えてもらおうか。」
ガルド「!?」 

 エデンは私の思考を読み取り、2機に急速接近した。そして、両腕から伸びる美しい剣は、レイフェジーズとグラネスカットの
最後の断末魔の指揮を取った。エデンの左右で大きな爆発が起こる。

エルゼ「待っていろ、ARS・・・。」

 私は振り返り、全軍に向って言った。

エルゼ「さぁ、最終決戦を始めよう!!」

 私の後ろにいる何百もの軍勢は声を上げた。レイン達の星の技術でクローン化に成功したレイン、フィリア、ガルド。そしてそれぞれの乗る
スィージメント、レイフェジーズ、グラネスカットは地球へと進軍を開始した。

エルゼ「希望を見せてもらおうか、鳳覇 暁・・・!!」


 -EP28 END-


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